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旭川家庭裁判所 昭和40年(少)1538号 決定 1965年8月27日

〔解説〕一四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした触法少年が現在一四歳に達している場合に、都道府県知事または児童相談所長からの送致なしに審判に付することができるかどうかについて、従来消極説が通説であり(注1)、これまで家裁月報に登載された裁判例はいずれも消極説に立つている(注2)。しかし、最近では、積極説も次第に有力となつてきており(注3)、積極説に立つ本件裁判例の現われたことは注目に価するといえよう。

消極説は、少年法三条一項二号および同条二項が一四歳未満という年齢限界を設けたのはたんに家庭裁判所の審判権の範囲を画する便宜のためだけでなく、責任能力の限界を加味したものであり、刑事責任年齢に達しない者が非行を行なつた場合には、まず児童福祉機関に先議させる趣旨であると解している。

これに対し、積極説は、(1)少年に対して児童福祉措置を優先させるべきか否かは処理当時における少年の人格の成熟度に重点を置いて行なわるべきであること、(2)刑事処分相当として検察官送致ができる一六歳の年齢や少年法適用年齢の上限を画する二〇歳など少年法における年齢の基準時は原則として処理時であること、(3)一四歳未満時の虞犯行為について処理時一四歳に達していれば、家裁先議ができることとの権衡を失することなどの論拠をあげる。

この問題は、審判に付すべき事由としての「犯罪」に責任の要件が必要かどうかという問題と密接な関連があり、必要とする考えは消極説に通ずるし、必要でないとする考えは積極説をとることになろう。その際、問題となるのは少年法の基本的性格および保護処分の本質をどう考えるかである。少年法が保護処分優先主義をとつており、まず保護処分の当否が考慮さるべきであること、保護処分は過去における「行為」に対する非難を追求するものではなく、現在の人格に着目しその犯罪性を矯正し少年の更生を図ることを目的とする教育処分であることなどから考えると、審判に付すべき事由としての「犯罪」に非難可能性を基礎づける責任の要件が必要であると解することにはかなりの疑問が残ると思われる。このように考えると、積極説の前記各論拠や本裁判例のこの問題点についての説示は相当説得力をもつており、この点に関する今後の裁判例の動向が注目される。ただ、警察は犯罪捜査規範二一二条によつて触法少年につき現に一四歳に達しているかどうかを問わず児童福祉機関に通告する取扱いをしており、この取扱いを改めるには少年法三条二項について立法的解決が必要であろう。

注1 団藤重光ほか「少年法」九三頁

司法研修所「改訂少年法概説」二〇頁

昭和二五年一月一三日家庭局第三課長回答(裁判例要旨集「少年法」四二頁)

宮崎昇「国家の司法作用としての少年審判」(家裁月報五巻九号四八頁)

昭和二五年一〇月全国少年係裁判官会同家庭局見解(会同要録一六頁)

注2 宇都宮家裁昭和三四年一〇月二六日決定(家裁月報一二巻一号一二二頁)

東京高裁昭和四〇年三月二九日決定(家裁月報一七巻一一号一三八頁)

注3 裾分一立「要保護性試論」(家裁月報五巻四号二〇頁)

川崎義徳「少年法と児童福祉法との交錯」(司法研修所報三〇号三七頁)

平場安治「少年法」九五頁、一五九頁

司法研修所「再訂少年法概説」二四頁

少年 M・M(昭二六・三・一二生

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一、別紙犯罪事実一覧表<省略>記載のとおり他人の財物を窃取し、

第二、A及びBと共謀の上、昭和四〇年三月上旬の午後六時頃、旭川市○○町○区○条○○原○男方店舗において、同人所有のチョコレート二〇個、チューインガム一一〇個ほか九点を窃取し

第三、正当な理由なく、同年七月○○日頃より、同年八月○日頃迄の間、父O、母Rほか姉妹のいる前記住居地の家庭に寄りつかず、旭川市△△町の物置小屋に寝泊りし、この間窃盗等の犯罪性を有するC(昭和二四年四月五日生)、D(昭和二六年六月一九日生)、E(昭和二四年三月八日生)と交際していたもので、その交友関係の環境及び自己中心的で意思薄弱、情緒不安定で内省力に欠ける等の性格に照らし将来罪を犯す虞がある

ものである。

(上記事実に適用すべき法令)

上記第一の事実はいずれも刑法二三五条、六〇条に該当し、第二の事実は同法二三五条、六〇条に触れ、第三の事実は少年法三条一項三号ロハに該当する。

(上記第二の事実について)

上記第二の事実は少年が一四歳未満のときになしたものであつて、これについては検察官が少年が一四歳に達した後である昭和四〇年八月二五日当庁に送致して来たものである。ところが少年法三条二項は現に一四歳未満の少年に対しては、その者が一般に保護手続適格(訴訟能力に対応するもの)が低く、その犯罪性が矯正しやすい状況にあり、保護者の意思を尊重するのが相当なところより、より厳格で強制力も伴う司法的手続により保護処分に付するよりも、非形式的な行政手続により保護者の意思をより尊重しつつ強制力を伴わない福祉的手続措置をとるのが相当と認めて原則として児童福祉法の措置によることとし知事又は児童相談所長に先議権を与えたものと解される。従つて現に審判時において既に一四歳を超えている少年に対しては、知事又は児童相談所長より事件が送致されたものでなくとも、家庭裁判所としてはその少年に対し保護処分に付することができるものというべきである。

(処遇の理由)

少年の犯行は前示認定のとおりで多数回に亘り、前示認定の家出のほかに同年三月、四月、五月にも家出をし、同中学校の犯罪性のある者と交際しているもので、前示のような性格的な欠缺を有していてその犯罪傾向は強度になりつつあるものと認められる。そして家庭はその少年に対する態度に一貫したものがなく、放任的であつて期待できるところが少い。従つて本少年については少年院に送致の上矯正教育を加える必要があるから、少年法二四条一項三号により主文のとおり決定する。

(裁判官 井関正裕)

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